安定の島(Island of stability)

読書の記録が主。

私の電子書籍悲喜こもごも その4

 前回の記事を書いてから3ヶ月ほどたって、タブレットをめぐる世界情勢は目まぐるしく変わったらしい。中国のHuaweiアメリカが締め出しはじめ、更にはGoogleまでも「Huaweiの機器に搭載されているAndroidは更新しません」と言ってきた。中華タブレットの先行きを訝しむ人もいる。

 

japan.cnet.com

 

 自分で作った電子書籍(pdf)を読み込むのにタブレットは必須だが、ここ7~8年ぐらいで、iPadiPad Air、中華タブレットなどを渡り歩いてきた私にとって、理想のタブレットは以下である。

 

・大容量、もしくはメモリーカードで拡張可

・PCと接続してのファイルのやり取りがスムーズ

・他の電子書籍サービス(Kindleアプリなど)も利用可能

・目が疲れない(E Inkなど)

 

 この辺は昨年の12月に書いた。

 

la-tour-divoire.hatenablog.com

 

 FacebookでこのE-Inkの話題を振ったところ、ウン万冊を自炊(本を裁断し、デジタルデータとすること)した友人が「Sonyのdpt-rp1」を使っているという。なんじゃそりゃ。調べてみると、画面サイズはA4(13.3インチ)、容量16GB、pdfのみ閲覧可能。元々は電子メモパッドとして開発されたもので、法人向けであったが、個人所有も増えているという。しかしpdfのみというと、Kindleのデータは見ることができない。それに容量16GB、というのは少ない気もする。

 さて、E-InkでAndroidを使う端末があれば、「pdfとkindle問題」は解決するのに、と思っていたら、中国のonyxというメーカーからいくつか出ていることがわかった。「boox note」は10.3インチ、32GB、OSはAndroidでE Ink使用。確かに良いが、もう少し容量があるか 、microSDカードが欲しいところだ。

 更に、DASUNGというメーカーから、「Not-eReader」なる製品がクラウドファンディングサイトに登場しているという。これは容量64GB、microSDカード対応、おお、いいじゃん!と思いきや、画面サイズが7.8インチと少々小さいのが玉に瑕。これで画面が大型ならば買うのだが。

  E Inkを使ったAndroidタブレット、というかなりニッチな組み合わせは、中国のメーカーにしか今の所無いようである。

 

 onyx(正式には文石株式会社だそうである)の他に、このライバル的な存在としてBoyue社の「Likebook」というのがある。7.8インチの「Likebook mars」が主力製品で、最近「Likebook muses」(7.8インチ、内部ストレージ32GB)と、「Likebook mimas」(10.3インチ、内部ストレージ16GB、メモリーカードスロットあり)というのを出したという。 

 

win-tab.net

 

 他にも「Not-ereader」、「E-Pad」なる製品がクラウドファンディングで出ているが、「Not-ereader」は「動画が見られる」ことを売りにしており、ちょっと不思議な感じ。E Ink(白黒)で動画見たってなあ。

 

 まあともかく、今後共この界隈を注視していきたい。

 

バッハ以前のクラシック音楽

 クラシック音楽は昔から好きだが、その中でもバロック以前の音楽が気になっている。具体的にCDを買い始めたのは、iTunesの履歴によると2016年とある。

 

 なぜ私がバロック以前の音楽に興味を持ったかと言うと、つげ義春の影響だ。

 つげ義春は、私の割と好きな漫画家の一人だが、好きな音楽を語っているインタビューがある(芸術新潮 2014年01号)。聞き手である山下裕二氏(美術史家)の「クラシックではどのあたりが特にお好きなんですか?」という問いに、つげ義春はこう答えているのだ。

 

「バッハ以前です。バッハ以後は、作曲家の個性とかが出過ぎるでしょう。それ以前は教会音楽、神への捧げものでしたから。ベートーヴェンなど、個性を打ち出すものになると駄目なんです」

 

 この辺で、

 

 うわかっこいい!

 

 と思ってしまったのである。なんかもう、突き抜けていて非常によろしい。私も、「好きな音楽は」と聞かれたときにそう答えてみたいものである。

 

 とはいえ、バッハ以前の音楽ってなんだろうか?と思い、いろいろ調べてみた。

 

クラシックがわかる超名盤100 (ON BOOKS 21)

クラシックがわかる超名盤100 (ON BOOKS 21)

 

 

 とりあえず、デイヴィッド・マンロウから始めることにした。夭折した演奏家で、ロンドン古楽コンソートの主催者である。「ゴシック期の音楽」はほとんど合唱曲のような感じだったが、「中世ルネサンスの楽器」が実にいい感じ。

 

 

リコーダーの芸術

リコーダーの芸術

 
ネーデルランド楽派の音楽

ネーデルランド楽派の音楽

 
宮廷の愛

宮廷の愛

 
Instruments Du Moyen-Age Et De La Renaissance

Instruments Du Moyen-Age Et De La Renaissance

 
ゴシック期の音楽

ゴシック期の音楽

  • アーティスト: ロンドン古楽コンソート,ショウ(ジョフリー),ボーマン(ジェームズ),ブレット(チャールズ),エリオット(ポール),レオナン,ペロタン,ベルナール=ド=クリュニー,ビジュー,マショー,マンロウ(デビッド)
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 1992/10/01
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログ (1件) を見る
 
十字軍の音楽

十字軍の音楽

  • アーティスト: マンロウ(デイヴィッド),クラーク(クリスティーナ),ボウマン(ジェイムズ),ブレット(チャールズ),ロジャース(ナイジェル),ショウ(ジェオフリー),クゥーシー,フェディット,ベチューヌ,獅子心王リチャード,ロンドン古楽コンソート
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2004/02/25
  • メディア: CD
  • 購入: 1人 クリック: 22回
  • この商品を含むブログ (10件) を見る
 

 

 そこから派生していろいろ聞いてみた。

 

 

王のパヴァーヌ〜空想 安土城御前演奏会 信長公ご所望の南蛮音楽〜

王のパヴァーヌ〜空想 安土城御前演奏会 信長公ご所望の南蛮音楽〜

  • アーティスト: 平尾雅子,ヴェッキ,ルッフォ,ジョスカン・デプレ,ナルバエス,マイオ,カベソン,サンドラン,オルティス,ノーラ,モンズィーノ,ガストルディ,ムダーラ,ボヴィチェッリ,ヴェルドゥロ,ガリレイ,上杉清仁,古橋潤一,永田平八,能登伊津子,上尾直毅,桜井茂,神田佳子
  • 出版社/メーカー: マイスター・ミュージック
  • 発売日: 2019/03/25
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
 

 

La Folia 1490 - 1701 / Savall

La Folia 1490 - 1701 / Savall

 

 

雉の祝宴 ~1454年 ブルゴーニュ公の宮廷における祝宴の音楽

雉の祝宴 ~1454年 ブルゴーニュ公の宮廷における祝宴の音楽

 

  うーん。

 うーん。

 CD多すぎじゃないのか…。

 

 クラシック沼は深い。深すぎる。

 

 その沼に頭まで使っていて思うのは、「あ、でもバッハやっぱりいいな。」なのであった。

 

  最近はブランデンブルグ協奏曲を聴いてます。

 

「騎士団長殺し」(村上春樹) ネタバレあり

 村上春樹の最新作「騎士団長殺し」が文庫化したので、よくないなあと思いつつ読んでしまった。

 「よくないなあ」というのは、以前書いたとおり、私は「風の歌を聴け」「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」までは楽しく読めたが、「ノルウェイの森」はいいとして、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」や「ねじまき鳥クロニクル」の、現実にさらっと非現実が入ってくる感じ(便宜上魔術的リアリズムと呼ぶが)についていけなかった。とはいえ、半ば惰性で「1Q84」を読んで、既視感を覚えつつ読了してしまったので、「よくないなあ」「悪い習慣だな」(中村主水かお前は)と思ってしまったのだ。

 

la-tour-divoire.hatenablog.com

la-tour-divoire.hatenablog.com

 

 さて「騎士団長殺し」のあらすじを少し。

 肖像画を描くことを仕事にしている主人公は、ある日突然妻から離婚を切り出される。ショックのあまり主人公は車で東北を流浪。その道中、大学時代の友人から小田原の家に住んでみないかと声をかけられる。友人「雨田政彦」の父・雨田具彦は高名な画家であったが認知症で入院し、その別荘が放置されているというのだ。

 主人公は小田原の家を借り、そこで肖像画を書いて暮らすようになるが、ある時、夜中に不思議な鈴の音が響き始める。そして、怪しい世界に巻き込まれていく…

 

 と、ここまで書いて、私は「困ったなあ」と思ってしまった。「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」や「ねじまき鳥クロニクル」に出てくる「あの感じ」なのである。友人となる中年男・免色氏はいいとして、突然登場する「騎士団長」、病院から謎の穴に入る、上田秋成の「春雨物語」…などなど、不思議な世界のフックがところどころに顔を出す。

 しかし、それらのフック(伏線ともいうか)は回収されないまま終わってしまう。がっくり。

 

 主人公は突如パスタを茹でたりしないが、行きずりの女とセックスするぐらいの村上春樹感ある人物(当たり前か)。たぶんセックスの回数は「騎士団長殺し」は少ない方だと思う(中国では「下品図書」扱いされたそうだが)。なお村上春樹のセックス描写については、

 

lfk.hatenablog.com

 

 を参照のこと。

 

 しかし村上春樹ももう60代後半なのか…と思うと、時の流れはいろいろ考えちゃいますね。

 

 

騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(下) (新潮文庫)

騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(下) (新潮文庫)

 
騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(上) (新潮文庫)

騎士団長殺し 第2部: 遷ろうメタファー編(上) (新潮文庫)

 
騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(下) (新潮文庫)

騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(下) (新潮文庫)

 
騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上) (新潮文庫)

騎士団長殺し 第1部: 顕れるイデア編(上) (新潮文庫)

 

 

古田織部 後編(「へうげもの」)

 

la-tour-divoire.hatenablog.com

 

 上記記事の続きの話。

 

 「へうげもの」で描かれる古田織部は最初、武人(本業)をとるか、数寄(茶など、趣味の世界)をとるか、と思い悩むシーンが多く描かれる。それが、千利休の「人とは違うことをしろ」という教えを守り、静謐な利休の茶とは異なり、激しく動的で、大胆で自由な美を形成していく。そして、千利休切腹という事件や、朝鮮へ渡航(なんと織部自ら)するなど、様々な経験を経て、自らの「美」(破調の美)を見出すのだ。

 神屋宗湛(博多商人)が日記で織部を評した言葉「へうげもの」(ひょうげもの)も、その「美」のひとつである。

 

 この漫画、絵もそうだが展開がかなりとんでもないのでそこに目を奪われてしまうが、ストーリー構成と伏線の貼り方が凄まじくうまいので、あまり気にならない。

 信長は秀吉に暗殺され(なんと秀吉自ら本能寺へ行く!)、細川藤孝(幽斎)は細川護煕そっくりだし、加藤清正具志堅用高そのもの(なんで!?)、大久保長安大橋巨泉そっくりの言葉遣いをする。小堀遠州と金森宗和はなぜか口調が女性っぽい。

 

 史実では織部大坂城の戦いで、家康を挟撃する陰謀を企んでいた罪により、息子ともども切腹する。しかし「へうげもの」では…最後まで書くとネタバレになるが、これまた最後の切れ味がすごすぎるんですよ。歴史好きでなくとも読んでほしいなあ…。

 

 

 

古田織部 前編(「割って、城を」)

 「へうげもの」を昨年Kindleで一気読みした。凄まじい作品だし、「今まで読んだ中で面白かった漫画ベスト10」をあげるとしたら、上位に食い込んでくる。

 ただ、名作故に感想が書きにくく、書こう書こうと思って半年近く先延ばしにしていた。先延ばしにしたら、頭の中で古田織部観がいろいろ変遷した。その結果分量が長くなったが、古田織部は大好きな人物なので、そのまま書いておく。

 

 

へうげもの」以前・以後で変わる古田織部

 

 いやその前に、「そもそも古田織部って誰よ」という質問に答えて、彼の略歴を書いておきたい。

 

 古田織部重然(しげなり)は戦国時代の人物で、信長、そして秀吉、家康の家臣として活躍した。武将というよりは茶人として有名で、千利休の弟子、そして利休亡き後は茶道のトップの一人とまで言われるようになる。

 しかし大坂の役で息子が徳川家に謀反を企んだと咎められ、切腹した人だ。その流派は「織部流」と言われ、彼の愛した焼き物が「織部焼」として彼の名を留めている。「織部」は彼に与えられた官位「織部正」に由来している。

 

 私は古田織部という人物を、司馬遼太郎の「割って、城を」という短編で知った。同時に、古田織部のイメージがこの短編で形成されてしまった。すなわち、ひとつの「異常者」としての古田織部である。

 

 「割って、城を」では晩年の織部が描かれているのだが、茶器を割って黄金でつないで新たな茶器を創作するという「芸術」は、織部の壊れた物への憧れから生み出した…と司馬は解釈している。「壊れたものへの憧れ」は、陰謀を生み出していく…という話。

 司馬は「破調の美」完全なもの、整ったものよりも、歪んだり崩れたりしたものを善しとする美意識)をこのように解釈したようなのだ。

 

 私が読んだ「割って、城を」が収録されていたのは確か新潮文庫から出ている短編集「人斬り以蔵」である。これを中学生の頃に読んでしまったせいで、私の中の織部観は、だいぶ変な人にねじまがってしまった。すなわち、千利休が伝統的芸術家であり、それと対比された、前衛芸術家としての古田織部である。

 

ダダイズム 既存(伝統的)芸術の批判

 

 話が脇道にそれるが、20世紀初頭、スイスで誕生した芸術運動の一つ「ダダイズム」のことを書く。ダダイズムは伝統的な芸術作品を否定するところから始まっている。

 すなわち、新聞をバラバラに切って適当に並べて詩とする、壊すための彫刻、モナリザの絵にヒゲを書いて作品とする、極め付きは便器にサインして展覧会に出品する等、今で言えばパフォーマンスアートであった。

 

 千利休という伝統的な茶を否定し、器を歪ませたり、砕いて黄金でつないだりしたのではないか、と私は勝手に思ってしまったわけである。

 今考えると、千利休の「茶道」も当時としては非常に新しい要素がたくさんあったそうで、己の不明を恥じているのであるが(今もなお)。

 

 古田織部の話続く。

 

 

へうげもの(1) (モーニングコミックス)

へうげもの(1) (モーニングコミックス)

 

 

 

人斬り以蔵 (新潮文庫)

人斬り以蔵 (新潮文庫)

 

 

 

ダダ・シュルレアリスムの時代 (ちくま学芸文庫)

ダダ・シュルレアリスムの時代 (ちくま学芸文庫)

 
ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動 (岩波現代全書)

ダダイズム――世界をつなぐ芸術運動 (岩波現代全書)

 

 

私の電子書籍悲喜こもごもその3

la-tour-divoire.hatenablog.com

 

 ここから進展しましたか、という問い合わせが友人からあったので、その場で簡単に話したが、まとまらないのでブログに書いてみる。

 まずKindleなどで使用されているE-Inkの端末であるが、ページをめくるときに若干のタイムラグがあるようだ。KindleとBoox Note(E InkのAndroidタブレット)この界隈で有名なライターの山口真弘氏の比較動画を見てみると。

 

www.youtube.com

 

 Boox NoteはE InkなのにAndroidが入っているというなかなか面白いタブレット端末だが、めくり速度は致命的ではないかと思われる。イライラするんじゃないかなあ。

 前回までの結論では、AppleよりもAndroid、E Inkは理想的だが独自のOSは面倒だから…という感じだったと思うが、これではちょっとねえ…。

 

 では中華タブレットか…というのもちょっと問題がある。アメリカでのHuawei問題があって、中華タブレット界隈がうるさくなってきているようで、今後どうなるか?という気がする。

「1Q84」(村上春樹)

 1月中、空き時間を見つけてはずっと「1Q84」を読んでいた。2巻まで読み終わってからは上り調子で、その後は1日一冊ぐらいのペースで読み終わることが出来た。本作は村上春樹の小説にしてはわかりやすく読みやすかったし、後半まで興味を失うことなく読み進めることができた。

 

 あらすじを少し。以下、ネタバレ多少あり。

 主人公は青豆(あおまめ)という名字の女性と、天吾という名の男性の2人。青豆はスポーツジムでインストラクターをし、バーで男を漁る(この辺がいかにも村上春樹的だ)アクティブな女性。天吾は小説家を目指す予備校の講師(担当:数学)。

 ある日、天吾は懇意にしていた編集者の小松から、「ふかえり」という作者の書いた「空気さなぎ」という小説のリライトをすすめられる。一方、青豆は仕事を済ませたあとタクシーに乗るが、そこで流れているヤナーチェクの「シンフォニエッタ」に導かれ、パラレルワールドのような世界「1Q84」に迷い込んでしまう…という話。

 

 まず「わかりやすさ」について。村上春樹の小説は、「現実」に「非現実」が突然介入してくる物語という形式が多い。その手法はスリップストリームとか、マジックリアリズムとかいわれているが、1つにまとめると「幻想文学」と言い切っても良いと思う。明らかに異常な状況なのに、それが「世界の常識」であるがごとく、周囲もびっくりしないし、主人公もすんなりそれを受け入れてしまう。

 ラテンアメリカ文学によくある手法だそうだが、私はそんなにラテンアメリカ文学を読んでいないので、なんともいえない。

 

マジックリアリズムってどういうもの?小説用語を徹底解説。 | P+D MAGAZINE

 

 しかし「1Q84」では、青豆が迷い込んだ世界が「通常の1984年」とは異なるということが示され、なおかつ迷い込んだきっかけも詳細に語られる。

 このあたりが非常に分かりやすい。私は、村上春樹の長編は「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」と…って、けっこう読んだなあ。

 まあともかく、リアル路線の「ノルウェイの森」を除けば、日常に非日常が突然介入してくる、という場面がばかりだった。しかし「1Q84」では、日常から非日常に入り込むときに分かりやすい「きっかけ」があったり、「1984年から1Q84の世界に移った」ことを説明してくれるキャラクターがいたり、と、ちゃんと解説してくれるのだ。 逆に言えば、それ以前の村上春樹作品では、その前段階が除外されていたため、例えば「羊男とはなんなのか」という謎が残ったまま読み終わってしまう。主人公の心象風景なのか、実際にいるのか。

 

 また、「1Q84」では様々な団体が名を変えて登場する。農業コミューンの「タカシマ塾」はヤマギシ会(もしかしたら加江田塾も混じっているかも)だし、新興宗教団体と化した団体「さきがけ」は山梨県に本部があることからオウム真理教を連想させる。また、「さきがけ」から分派し、後に警察と衝突する団体「あかつき」の事件はあさま山荘事件。などなど、「1Q84」の世界では、現実の世界で起きている事件に関連性をもたせ、村上春樹の目線で語られる。この辺も面白かった。

 

 とはいえ、全ての謎(伏線)は回収されないまま、青豆と天吾の関係にまとめられていく。結局、1Q84の世界はなんだったのか。「リトル・ピープル」とは何か。「空気さなぎ」とは何か。などなど…

 変なシーンだけあげれば、重要なキーパーソンのはずだった「ふかえり」は後半ほとんど登場しないし、青豆は天吾の子供を身ごもったと主張する(しかし性交渉はないのである)。何かを期待させながら、しかし意味なく登場し、大仰にまくしたてる「NHKの集金人」。ハードカバーで全3巻、文庫本にして全6巻だが、このへんはうまく風呂敷をまとめられていないようだった。

 大きな風呂敷を広げてみたものの、うまくまとめるのは無理だとわかり、一番まとめやすかった「青豆と天吾」という部分だけまとめたのではないか、という気がする。

 

 音楽について。

 重要な場面でたびたび登場する、チェコ出身の作曲家・ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」をはじめ、クラシックが頻出する小説でもある。今回はヴィヴァルディ、バッハ、テレマンなど少しバロックよりか。

 「シンフォニエッタ」の場合、青豆はジョージ・セル指揮、クリーヴランド管弦楽団演奏のレコードを買い、別の場面で天吾は小澤征爾指揮、シカゴ交響楽団演奏をかけるというシーンは、「オレの好きなものに異論を挟むな」と睨んでくるようである。

シンフォニエッタ」には主題がはっきり見えずわかりにくい曲で、村上春樹が取り上げなければ日本ではそうそう好き好んで聞こうという人などいなかっただろう。

 

 

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

 

 

 

バルトーク : 管弦楽のための協奏曲 / ヤナーチェク : シンフォニエッタ

バルトーク : 管弦楽のための協奏曲 / ヤナーチェク : シンフォニエッタ